毎年3月8日は国連が定めた「国際女性デー」です。女性が健康で明るく、充実した日々を送るために大切なことはなにか。現代では、痩せ志向や、体型を気にすることによる過度なダイエットが見受けられます。女性ならではの体型の悩みについての考えや自分の身体との向き合い方について、元フェンシング・フルーレの久良知美帆さんがファシリテーターを務め、女子サッカーの宇津木瑠美選手とテコンドーの山田美諭選手が対談を行いました。「アスリートとして、1人の女性として、女性特有の身体の悩みを抱える方に少しでも参考になれば」という想いが込められています。
宇津木瑠美(写真・中央)
Rumi Utsugi
1988年、神奈川県出身。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。ポジション:ディフェンダー。背番号30。2005年~2018年日本女子代表(2008年北京五輪4位、FIFA女子ワールドカップ2011 優勝)/2019年プレナスなでしこリーグ1部優勝、プレナスなでしこリーグカップ1部優勝、皇后杯優勝 国内3冠達成
山田美諭(写真・右)
Miyu Yamada
1993年、愛知県生まれ。2016年4月入庫。テコンドー-49kg級。2017年~2019年、2022年全日本テコンドー選手権優勝/2019年ローマグランプリ3位/2021年東京2020オリンピック競技大会5位
ファシリテーター=久良知美帆(写真・左)
Miho Kurachi
1993年、福岡県生まれ。2016年4月入庫。フェンシング・フルーレ競技。2018年全日本選手権個人5位/2023年ブルガリアワールドカップ出場/2024年3月引退
――アスリートは普段の食生活を意識している方が多いと思います。工夫していることやコントロールする方法などはありますか?
宇津木:私はもう30代半ばなので、一度にたくさん食べるのではなく、常に少しずつ食べる方法に変えています。食べ過ぎると次の日に残ったり、疲れてしまうことが多いので、消化しやすいものを優先的に摂るようにしています。
久良知:海外での生活が長いとお聞きしました。見た目に対する考え方で、日本とのギャップはありましたか?
宇津木:違いは大きかったです。20歳からフランスに6年住んでいましたが、海外だとアスリートなのに身体が細いことや、フィジカルで当たり負けていることは、技術がないことと同じくらい恥ずかしいと言われていました。海外では自分の身体をどう使いこなせるかに着目してくれていたので、体型そのものに対しての評価は感じてこなかったです。
久良知:すごくわかります。私も社会人になって海外のコーチに見てもらったときに「その身体は細すぎる!マッチ棒だ!」と言われて衝撃を受けました。もっと食べてほしいと言われて、その時期からアスリートとしての身体作りをより意識するようになったら、体重は増えましたが動きやすくなりました。
階級のあるテコンドー競技は、どうですか?
山田:私は減量競技なので、体重は常に意識していますね。普段の体重は55~56㎏くらいなんですけど、階級が-49㎏なので試合前は3か月かけて6~7㎏を落とします。練習時間も夜なので、帰宅してからがっつり夜ご飯を食べると体重も増えやすいし消化にも時間がかかる。なので、練習前後に分けて食事を摂るようにしているんです。体重もですけど、「身体の質」を大事にしています。
久良知:身体の質!どの競技にも共通して言えることは、見た目を重視することより、競技をする上でいかに動けて戦える身体を作るかが大切と感じますね。
――体重の変化によって、競技のパフォーマンスはどう違ってきますか?
宇津木:サッカーは身長180㎝の人と150㎝の人が同じボールを取り合う競技なので、体格差のある中でどう戦っていくのかが難しくて。あとは1試合で10キロくらい走るので、体重を維持するのもすごく難しい…。
久良知:1試合で10キロも走っているんですか…!その運動量だと、確かに維持が大変ですね。
宇津木:減量中ってパフォーマンスに影響が出たりするんですか?
山田:増減が激しいのでやっぱり影響は出やすいです。私の場合は息が切れやすくなったり、腰痛がでます。体重が50㎏~51㎏ぐらいになると、感覚が変わって身体をうまくコントロールできないんですが、試合当日には自然と一番しっくりくる身体と動きになるので階級が自分の身体に合っているんだと思います。
宇津木:長い時間をかけて減らしているからですかね。
山田:それもあると思います。テコンドーは計量が前日と当日の2回あるので、短期間で体重を落とすと1回目の計量後のリカバリーで体重が戻りやすい問題点もあるんです。選手によって減量のやり方は違うけど、私はここ数年でやっと自分にあったやり方を見つけることができました。
久良知:そうなんですね。ベストな体重はありますか?
山田:53㎏ぐらいが食事もしっかりとれて1番スピードもパワーも出るので動きやすいんですが、オリンピック階級に−53㎏級がないので…。そこは階級が決められている分、厳しい面があります。
久良知:宇津木選手はどうですか?
宇津木:基本的にサッカー選手はなくて、自分が思う体重が大事ですね。10㎏増えても体脂肪が11~12%しか増えない子もいれば、逆に5㎏減ったのに体脂肪が3%増える子もいるので、体重より質を見ていることのほうが多いです。
――思春期の身体の変化は皆さんあったと思います。アスリートとしてはどのように変化に対応しましたか?
宇津木:私は身長が170㎝ないくらいで、高校生の時からほぼ変わらないのですが、当時の体重は60㎏ぐらいありました。今は体重が56㎏・体脂肪率が15%ぐらいです。それを下回るともっとカリカリになってしまいます。
山田:ずっと体重をキープされているんですね!若い頃より筋肉量が増えたということですか?
宇津木:そうです。一週間とか休むとすぐに筋肉が落ちたり、体脂肪率が上がってしまったりすると思います。
山田:その時は身体の感じも結構変わりますか?
宇津木:変わります!結構もっちりする感じがします!体重が変わらなくても質は変わると思います。
山田:その点は私もちょっと近いかもしれないです。東京オリンピック後に1年休養していた時は、体重は変わらず体脂肪率だけ増えていました。競技復帰をしてトレーニングを再開したらすぐ元の体脂肪率に戻ったんですけど、年齢が上がるにつれて体脂肪率を戻すのも、減量するのも前より時間がかかるようになってきているのを感じています。
久良知:山田選手の減量後はカリッカリのムキムキですもんね。
思春期はどうでしたか?
山田:体重は今より軽いのに、ムチムチで顔もパンパン。脂肪も多くて腹筋も割れていなかったです。今の方が筋肉がつきやすいのか、ウェイトトレーニングなどを始めてからいきなり身体が変わり始めました。社会人になってからインボディ(体の基本成分である水分、タンパク質、ミネラル、体脂肪など )を定期的に測るようになって、そこでちゃんと自分の身体を知るようになりました。
久良知:今の山田選手からは想像できない!やっぱり体の成長時期に合わせたトレーニングって大切ですね。
山田:宇津木選手はさっき体脂肪率15%ぐらいと言っていましたが、そのくらいの時って生理はちゃんときますか?
宇津木:サッカー選手の良くないところでもあるんですけど、生理がきちんと来ていない選手は結構多いと思います。
山田:ええ!そうなんですか!
宇津木:1日10㎞くらい走ったりするので、稼働率に対して身体のリカバリーが間に合わないんじゃないかと思います。チームの多くの選手が何かしらの問題は抱えているかもしれません。
山田:15%切ると生理がこないって言いますよね。
宇津木:そうですね。それを体質改善で行うのか、もしくはピルを摂取するのかといった感じですかね。私はピルを飲まないと生理が来ないのでピルを飲んでいるんですけど。
山田:あ、来させるために!止めるためじゃないんですね。私は減量期に生理がくると体重が全然落ちなくなるので、それを避けるためにピルで止めたりしていました。
久良知:なるほど。コントロールするためだけではなく、減量のためにピルを飲むということも競技によってはあるんですね。
それぞれのお話を聞いて、アスリートは専門のドクターなどに相談をしながら、自分自身に合う方法を見つけて競技生活を送っている人が多いのかなと思いました。
――世の中は痩せ志向から無理なダイエットをしている方もいると思いますが、そういった方々へお二人からメッセージをお願いします。
宇津木:私はアスリートとして見た目も一つの商品だと思っているので、シルエットや雰囲気がかっこいいよねって言われたくて鍛えています。自分のモチベーションも上がるので。だから、自分が一番いいと思う身体でいてほしいと思います。
久良知:自分がいいと思う身体って大切ですよね。
宇津木:はい。自分の好きな自分を見失わないでほしいです。
例えば、私は人と話すときにちゃんと顔を見て話す自分が好きですし、挨拶をきちんとする自分が好きだなって思うんです。何か想像した時に「こんな自分良いよな」って思い浮かぶ人になってほしいなと思います。
久良知:ありがとうございます。山田選手、お願いします。
山田:自分を知ることが一番大切なことだと思います。それぞれみんな体も心も違うので。自分に一番合うものを見つけるためには、自分の体の状態や心の状態をしっかりと知ることが大切だし、周りと比べるのではなく、自分自身と向き合って見つめ直してほしいと思います。
久良知:アスリートは競技をする上で一番ベストな身体でいる事が大事で、アスリートじゃなくても自分に合った身体のコンディションを自分で見つけることが大切。そのために自分のことをもっと知ってほしいですね。私自身にとっても自分を見つめ直すいい機会になりました。お二人とも、ありがとうございました。
国際女性デー(International Women’ s Day)とは?
女性の地位向上、女性差別の払拭等を目指す国際的な連帯と統一行動の日です。
国連は1975年、3月8日を「すばらしい役割を担ってきた女性たちによって、もたらされた勇気と決断を称える日」として、正式に国際女性デーに制定しました。
イタリアでは3月8日に男性から女性に愛や幸福の象徴でもあるミモザを贈ることが習慣となっています。
この文化が世界的に広がり、黄色いミモザが国際女性デーの象徴となりました。